配偶者居住権とは、被相続人の死亡時に被相続人が所有する家屋に居住していた配偶者が、被相続人の死亡後もその家屋に住み続けることができる権利です。
被相続人が有していた家屋の所有権を「住む権利」と「それ以外の権利」に分け、配偶者が「住む権利」(=配偶者居住権)を取得し、他の相続人が「それ以外の権利」(=配偶者居住権が設定された所有権)を取得することができる、とイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合、配偶者居住権が設定された所有権を取得した他の相続人は、所有者として配偶者に退去を求めることはできなくなります。
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配偶者居住権(民法第1028条)
たとえば、夫が所有する家屋に妻が居住していて、子が一人いるとします。夫が亡くなった場合、妻に配偶者居住権が認められるのは、どのような場合でしょうか。
次の二つの条件を満たす必要があります。
(1)夫死亡時に夫が家屋を所有しており、かつ妻がその家屋に居住している
なお、夫のみが施設に入所している場合もありえますので、夫が亡くなったときに妻が夫と同居していることは、要件ではありません。
※妻と共有していた場合も含みますが、妻以外の者と共有していた場合は、配偶者居住権は成立しません。
※夫が家屋を所有していたのではなく賃借していた場合、配偶者居住権は成立しません。
(2)遺産分割協議又は遺贈により、妻が配偶者居住権を取得
すなわち、
- 夫が亡くなった後に、妻と子が、配偶者居住権を妻が相続し、所有権を子が相続するといった内容の遺産分割協議を行う
又は、 - 妻に配偶者居住権を遺贈し、子に妻が自宅に住み続けることを条件に自宅を相続させるといった内容の遺言を、夫が残す
といった方法により、妻は配偶者居住権を取得します。
なお、妻は自己の具体的相続分において配偶者居住権を取得していますので、所有者となった子に賃料を支払う必要はありません。
配偶者居住権の存続期間(第1030条)
配偶者居住権は、その配偶者が亡くなるまで存続することが原則ですが、遺産分割協議又は遺言で期間を定めた場合は、その期間の満了によって配偶者居住権は消滅します。
配偶者居住権は、配偶者が亡くなると消滅し、相続はされません。また、存続期間の延長や更新はできません。
配偶者居住権の対抗要件(第1031条)
配偶者居住権は、登記することができます。配偶者居住権の対抗要件は、登記のみです。一般的な居住目的の建物賃借権では、建物の引き渡しを受けることにより対抗要件を備えることができますが、配偶者居住権では、すでに当該家屋に居住していることが多いため、引き渡しのみでは第三者に権利を主張できません。
配偶者による使用及び収益(第1032条)
配偶者は、従前居住の用に供していた部分を収益のために用いることはできませんが、従前店舗部分や賃貸部分としていたところを居住の用に供することができます。
配偶者は、たとえ所有者の承諾があっても、配偶者居住権を譲渡することはできません。ただし、たとえば、配偶者が施設に入所するので長期にわたって自宅から離れるような場合には、所有者の承諾を得て、第三者に賃貸することができます。
居住建物の費用の負担(第1034条)
配偶者は、固定資産税や通常の修繕費といった通常の必要費を負担する必要があります。
一方、配偶者が、災害による建物修繕費といった特別の必要費を負担した場合は、所有者は、配偶者に対してその費用を償還する必要があります。
上記の配偶者居住権とは別に配偶者「短期」居住権が認められています。これにより相続開始時に被相続人が所有する家屋に無償で居住していた配偶者は、相続開始後最低6か月間、そのまま住み続けることができます。
配偶者短期居住権(民法第1037条)
たとえば、夫が所有する家屋に妻が無償で居住していて、子が一人いるとします。夫が亡くなり、遺産分割協議により子が自宅を相続した場合や、夫が自宅を子に相続させる旨の遺言を残していた場合、妻はいつまで自宅に居住できるのでしょうか。
夫が生前に家屋を所有しており、夫死亡時に妻がその家屋に無償で居住していて、現在も同じ家屋に居住していれば、妻は配偶者短期居住権を取得でき、一定期間そのまま自宅に居住し続けることができます。
短期間の間に妻と子の間で遺産分割協議が成立しても、夫が亡くなってから6か月を経過するまでは、配偶者短期居住権の存続が認められ、その間妻は引き続き居住し続けることができます。
亡くなってから6か月が経過しても遺産分割協議がなされていない場合は、配偶者短期居住権は、遺産分割協議成立まで存続することになります。
配偶者短期居住権も、配偶者居住権と同様配偶者が亡くなると消滅し、相続はされません。
妻は、子に賃料を支払う必要はありません。
なお、妻が配偶者居住権を取得した場合、配偶者短期居住権は取得できません(消滅します)。
配偶者短期居住権の対抗要件
配偶者短期居住権は、対抗力がありません。したがいまして、居住建物の所有者が第三者に家屋を譲渡した場合、配偶者は配偶者短期居住権をもって当該第三者に対抗することはできないことになります。
配偶者による使用
配偶者短期居住権は、配偶者居住権と異なり、居住建物を使用する権利のみが認められ、収益をする権利はありません。
配偶者は、たとえ所有者の承諾があっても、配偶者短期居住権を譲渡することはできません。
居住建物の費用の負担(第1041条→第1034条、配偶者居住権と同様)
配偶者は、固定資産税や通常の修繕費といった通常の必要費を負担する必要があります。
一方、配偶者が、災害による建物修繕費といった特別の必要費を負担した場合は、所有者は、配偶者に対してその費用を償還する必要があります。
最後に、配偶者居住権と配偶者短期居住権の主な共通点、相違点をまとめます。
共通点
- 亡くなった方の所有する建物が対象であり、亡くなった時点で配偶者が当該建物に居住(配偶者短期居住権では無償で居住)していることが要件
- いずれも無償であり、賃料、使用料は不要
- いずれの権利も譲渡できず、また配偶者の死亡により権利消滅
- 必要費の負担方法が同じ
- いずれも建物所有者(取得者)から消滅の意思表示(申し入れ)ができる(要件は異なる)
相違点
- 配偶者居住権では居住建物の使用及び収益が可能だが、配偶者短期居住権では使用のみ可能
- 配偶者居住権は登記をすれば第三者に対抗可能であるが、配偶者短期居住権には対抗要件具備の制度がない
- 配偶者居住権の存続期間は原則として配偶者が亡くなるまでであるが、配偶者短期居住権は使用期間があり亡くなるまでではない