遺産分割の実務では、分割協議の時点で現存する財産を分割対象とすることが多いですが、相続人中に分割協議前に財産を処分した人がいる場合、その相続人が他の相続人よりも実際に取得する財産が多くなってしまい、不公平が生じていました。
そこで、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人の全員の同意により、その財産を遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができるようになりました。(民法第906条の2)
共同相続人の一人又は数人により財産が処分されたときは、その相続人の同意を得ることは、必要ありません。
たとえば、相続人のうちの一人のAさんが他の相続人BさんCさんに無断で預貯金債権の払い戻しを受けた場合、他の共同相続人BさんCさんは自分たちのみの同意(BさんCさんの同意)により、当該払戻金を遺産分割の対象にすることができます。この場合、Aさんの同意は不要です。
同意の対象は、処分された財産を遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすこと、すなわち遺産分割の対象に含めることであり、誰が当該財産を処分したのかは同意の対象ではありません。
なお、他の共同相続人BさんCさんが遺産分割による精算を望まない場合には、Aさんに対して自己の相続分の侵害による不法行為に基づく損賠賠償請求又は不当利得返還請求ができると考えられます。