民事信託とは、ご自身の財産を、家族などの信頼できる方に託して、管理・運用・処分してもらう制度のことをいいます。
民事信託では、財産の所有者(「委託者」といいます)から財産を託される方(「受託者」といいます)に、財産の所有権を移転します。受託者は、託された資産から利益を受ける方(「受益者」といいます)のために、資産を管理・運用・処分することになります。
受託者が財産の所有者になるという点に、民事信託の特徴がありますが、あくまで契約で定める信託の目的の範囲内で財産を所有するのみですので、実質的な所有者は、受益者(当初の受益者は、委託者自身であることが通常です)ということになります。
財産の所有権を奪われてしまうと、過度に心配なさる必要はありません。
民事信託は、信託銀行や弁護士、司法書士等の専門家が受託者になるわけではなく、主として家族が受託者になります。
家族に預ける点を強調して、家族信託、家族のための信託ということもあります。
受託者は報酬を受けとることはできますものの、事業として行うわけではない点が、信託銀行などが事業として行う商事信託と異なります。
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民事信託を利用する代表例は、認知症対策です。
親が高齢になって認知症になった場合、預貯金口座からお金を自由に出し入れすることや、不動産を売却して施設の利用料にあてたり、空き地を運用したりすることができなくなる可能性があります。
認知症になった場合に備えて、あらかじめ元気なときに、民事信託を利用して家族に預貯金や不動産を預け、管理・運用・処分をまかせておけば、ご自身もご家族も安心して生活を送れます。
任意後見とのちがい
似たような制度として、任意後見という制度があります。任意後見では、認知症などになって、判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ元気なときに、ご自身で後見人を選び、契約(任意後見契約)を結んでおくことができます。
任意後見は、ご本人の財産の維持管理を目的とする制度ですので、支出は、基本的に必要最小限のものになります。積極的に投資・運用を行うことは、できません。
また、任意後見契約の効力が発生するのは、本人の判断能力が衰えたときです。
裁判所に対して、任意後見監督人選任の申立てを行い、任意後見監督人が選任されたときから任意後見が開始します。
任意後見が開始する前にも、財産の管理をしてもらいたい場合、財産管理についての委任契約を別途締結する必要があります。
一方、民事信託は、受託者の権限を契約で自由に設定することができます。任意後見人ではできないような積極的な財産活用を行い、生前贈与をすることにより相続税対策を行うなど、柔軟な財産の運用・管理・処分を行うことができます。
ただ、民事信託は、身上監護をまかせることができないという点がありますので、身上監護や日常生活の支援については、後見制度(任意後見)で対応することになります。
身上監護とは、被後見人の生活、医療、介護、療養看護、施設の入退所などに関する身の回りの法律手続を行うことです。なお、被後見人の介護する行為そのものは、身上監護に含まれません。
したがいまして、民事信託、任意後見のよいところを双方利用していくことが大切です。
民事信託は、遺言書のように利用できる
民事信託では、当初の受益者は、委託者自身であることが通常です。そして、最初の受益者が亡くなった時に、次の受益者を定めておくことができます。例えば、将来自分が亡くなったときは、自分の妻を次の受益者として定めておくことができます。
このように、民事信託では、財産の管理だけでなく、財産の承継についても定めることができ、死亡をきっかけとして、財産の承継について定める場合には、民事信託を遺言の代わりとして使うこともできることになります。
信託の倒産隔離機能
財産を信託しますと、委託者から受託者に所有権が移転します。
したがいまして、委託者の債権者は、信託財産に対して強制執行することはできません。
また、受託者に所有権が移転しますが、受託者個人が持っている財産とは分別して管理されます。
したがいまして、受託者の債権者も信託財産に対して強制執行することはできません。
このように、委託者の債権者も、受託者の債権者も信託財産から回収できなくなります。
これを信託の倒産隔離機能といいます。
民事信託をおすすめしたい方
それでは、どのような方が民事信託を利用すべきなのでしょうか。
次のような方は、民事信託の活用をぜひご検討ください。
- 財産を所有している親が、認知症になることが心配
- 実家が空き家になって、管理や売却が心配
- 賃貸経営をしているが、認知症になることが心配
- 財産の中で、不動産の占める割合が高い
- 今後の財産管理や相続が心配
- 事業を承継したい
- 相続についての話合いのきっかけが欲しい
具体的な内容は、それぞれのページでみていきたいと思います。
思わぬ課税に注意
民事信託では、受益者を変更することを基準に課税されます。
委託者と受益者が一緒であれば課税はされませんが、委託者と受益者が異なる信託を組成した場合、委託者から受益者に利益が移転したとされ、贈与税が課税されます。
ほかにも思わぬ課税がされる可能性がありますので、民事信託を行う場合は、必ず課税面を考慮に入れて手続を進める必要があります。
当事務所では、税理士とともに認知症対策及び財産活用を目的とした民事信託を積極的に行っております。
どうぞお気軽にご相談くださいませ。