従前の相続に関連する法律には、たとえば次のような不都合な点がありました。
- 亡くなられた方(被相続人)と長年ともに居住していた配偶者であっても、その自宅を相続できずに追い出される可能性がありました
- 遺産分割協議が終了するまでは、相続人全員の合意がないと預貯金の払戻請求ができず、相続発生後の当面の必要生活費や葬式費用の支払いに、被相続人の預貯金をあてることができない場合がありました
- 自筆証書遺言は、すべてご本人による手書きでないといけませんでした
- 不動産を相続した相続人に対して遺留分減殺請求が行われると、不動産が遺留分減殺請求をした相続人と共有になってしまい、金銭化するためには共有物分割請求などをしなければならず、お互いに不便でした
- 相続人でない親族は、被相続人を献身的に介護しても報われることがありませんでした
- 自筆証書遺言は、相続人によって隠されたり、変造されたりするおそれがあり、相続に関する紛争の原因の一つとなっていました
- 遺産分割の実務では、分割協議の時点で現存する財産を分割対象とすることが多いですが、相続人中に分割協議前に財産を処分した人がいる場合、その相続人が他の相続人よりも実際に取得する財産が多くなってしまい、不公平が生じていました
そこで、上記のような不都合な点が改正されることになりました。
改正の主なポイントは、以下の7つです。
- 配偶者居住権の新設(2020年4月1日から)
- 遺産分割の取り扱いの変更(2019年7月1日から)
- 自筆証書遺言の方式の変更(2019年1月13日から)
- 遺留分制度の変更(2019年7月1日から)
- 相続人でない者の特別の寄与による請求権の新設(2019年7月1日から)
- 自筆証書遺言の法務局保管制度(2020年7月10日から)
- 遺産分割前に行われた処分に対する取り扱いの変更(2019年7月1日から)
それぞれのページで内容をご説明いたしますが、ポイントのみここで触れておきたいと思います。
このページの目次
1.配偶者居住権の新設(2020年4月1日から)
配偶者居住権とは、被相続人の死亡時に被相続人が所有する家屋に居住していた配偶者が、被相続人の死亡後もその家屋に住み続けることができる権利です。
被相続人が有していた家屋の所有権を「住む権利」と「それ以外の権利」に分け、配偶者が「住む権利」(=配偶者居住権)を取得し、他の相続人が「それ以外の権利」(=配偶者居住権が設定された所有権)を取得することができる、とイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合、配偶者居住権が設定された所有権を取得した他の相続人は、所有者として配偶者に退去を求めることはできなくなります。
上記の配偶者居住権とは別に配偶者「短期」居住権が認められています。これにより相続開始時に被相続人が所有する家屋に無償で居住していた配偶者は、相続開始後最低6か月間、そのまま住み続けることができます。
2.遺産分割の取り扱いの変更(2019年7月1日から)
①遺産分割前の預貯金債権の払戻請求ができるようになりました。
相続発生後の当面の必要生活費、平均的な葬式の費用の支払いができるように、一定の金額までは、各相続人が単独で預貯金を払い戻せるようになっています。
一定の金額とは、一つの金融機関ごとに法定相続分の3分の1以内、かつ150万円以内です。
例えば、ある金融機関の口座の預金が1800万円で妻と子が2人の場合は、妻は法定相続分2分の1の3分の1である300万円が150万円を超えますので150万円を、子は法定相続分4分の1の3分の1である150万円をそれぞれ単独で払い戻すことができます。
なお、それぞれが払い戻した分は、一部分割で取得したものとみなされます。
複数の金融機関に預貯金がある場合には,それぞれの金融機関から上限額まで払戻しを受けられます。
②遺産の一部の分割が可能であることが明文化されました。
いままで遺産の一部の分割は実務的に行われていましたが、可能であることが明文化されました。
③結婚して20年以上の夫婦の場合、配偶者への居住用不動産の遺贈又は贈与が特別受益の対象外となりました。
つまり、結婚して20年以上の夫婦間で自宅を配偶者に遺贈又は贈与した場合でも、配偶者の遺産取得分が減らされることはありません。
④相続による不動産等の権利の承継につき、遺産分割、遺言等に基づく法定相続分を超える部分の権利承継は、対抗要件を具備(登記等)しなければ、第三者に権利を主張することができないこととされました。
3.自筆証書遺言の方式の変更(2019年1月13日から)
自筆証書遺言の財産目録については、自書することを要しないとされました。
たとえば、登記事項証明書(のコピー)、預貯金通帳のコピー等を添付してもよいですし、パソコンで作成した財産目録でも構いませんが、毎ページに遺言者が署名捺印する必要があります。
4.遺留分制度の変更(2019年7月1日から)
これまで遺留分の請求は、遺留分「減殺」請求といわれてきましたが、遺留分「侵害額」請求となりました。
これまでの遺留分「減殺」請求は、遺留分を侵害する遺贈などの効力を失わせ(減殺し)、目的物の所有権(の一部)を移転させるものでした。
たとえば遺贈された不動産に対して遺留分減殺請求をすると、侵害された限度で不動産の所有権を取り戻すことになりますので、遺留分権利者と受遺者が不動産を共有する結果となってしまい、金銭化するためには共有物分割請求などをしなければならず、お互いに不便でした。
そこで新制度では、個別の遺贈や贈与に対する効果を減殺するのではなく、遺留分の侵害額を金銭で請求できる権利に変更し、遺留分「侵害額」請求権というようになりました。
遺留分侵害額請求権となったことで、不動産の贈与や遺贈があった場合に権利を行使した場合でも、不動産の一部ではなく金銭によって返還を受けられるようになりました。
5.相続人でない者の特別の寄与による請求権の新設(2019年7月1日から)
被相続人の介護や看病に高く貢献した親族が、相続人に金銭の請求をすることができるようになりました。
これまでも被相続人を献身的に介護した相続人がいる場合、その相続人に寄与分として遺産取得分を増やすことができました。しかし以前の寄与分制度では、寄与者として認められるのは相続人だけであり、相続人でない親族はどんなに献身的に介護を行っても相続において評価されることがありませんでした。
そこで、相続人でない親族であっても介護や看護で寄与したものがいる場合、相続人に金銭の請求をすることができることとされました。
6.自筆証書遺言の法務局保管制度(2020年7月1日から)
これまでは自筆証書遺言を作成したら、そのまま遺言者が自宅で保管するか、司法書士等の遺言執行者がいる場合は遺言執行者に預ける方法が一般的でした。
自宅で保管する場合、相続人によって隠されたり、変造されたりする可能性があります。
そこで、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえるようになりました。
さらに、法務局で保管してもらっていた場合、自筆証書遺言であっても公正証書遺言と同様に、死後の家庭裁判所における検認手続が不要となります。
7.遺産分割前に行われた処分に対する取り扱いの変更(2019年7月1日から)
遺産分割の実務では、分割協議の時点で現存する財産を分割対象とすることが多いですが、相続人中に分割協議前に財産を処分した人がいる場合、その相続人が他の相続人よりも実際に取得する財産が多くなってしまい、不公平が生じていました。
そこで、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人の全員の同意により、その財産を遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができるようになりました。
共同相続人の一人又は数人により財産が処分されたときは、その相続人の同意を得ることは、必要ありません。